最新作はミュージカル版『Code:Realize』!
近年、多数の作品が上演されている、アニメやゲームを原作にした“2.5次元”作品。それらはどうやって作られているのでしょうか?
そんな“2.5次元舞台の作りかた”を、演出家・脚本家として多くの作品を手掛ける吉谷光太郎氏に直撃!
2018年5月17日より幕を開ける最新作、ミュージカル「Code:Realize ~創世の姫君~」の見どころとともに、気になる舞台の裏側をたっぷりとうかがいました。
2.5次元舞台が上演されるまで
――近年さまざまなゲームやアニメが2.5次元作品として舞台化されていますが、2.5次元作品はどのような経緯で制作が決まっていくのでしょうか。
吉谷 私は舞台制作の会社(ポリゴンマジック)に所属している演出家なので、珍しいケースだと思うのですが……会社で「こういう作品を舞台化しよう」という企画が出て、原作側に許諾を受けて制作することもあれば、共同の会社から「いっしょにやりませんか?」とお話を頂くケースもあります。今回のミュージカル「Code:Realize ~創世の姫君~」は、4cu(フロンティアワークス)さんからお話を頂いた形ですね。原作者側から「舞台化したい」とお話を頂くときもあります。
――舞台化の企画は、上演からさかのぼっていつ頃から始まることが多いのですか?
吉谷 劇場は1年前くらいには押さえます。押さえた劇場にハマる作品として、1年前かもう少し前から企画することが多いですね。逆に「この作品をやってほしい」と言われたら、劇場含めどのタイミングでやれるのかを計画するのです。たとえば「アニメが1月から始まるから舞台はあまり間を空けずに4月くらいには上演したほうがいいよね」といったように。基本的に、半年から1年前にはキャスティングは決まっていることが多いです。
――だいたい1年前に企画が立ち上がってから、吉谷さんのお仕事はいつ頃からスタートするのでしょうか?
吉谷 ふつう脚本家は、上演の半年か1年前くらいから仕事を始めることが多いです。プロットを作成して、原作側に提案して、半年前くらいから第1稿を書き始める……といったように。そしてやりとりがあって修正があって、本番の3ヵ月くらい前には完成稿ができているとベストかな、と。最悪、稽古直前になることもありますが(笑)。
――演出のお仕事はいかがですか?
吉谷 演出は脚本とスタートはあまり変わらなくて、同時期です。完成稿ができる前から、スタッフィング、舞台美術、キャストのオーディションなどのやりとりもありますし。脚本と演出は、稽古までは別の流れで進めますが、スタート地点は変わりません。原作の資料を読んだりなど、やることが決まれば早めに動くに越したことはないので。膨大な原作だったらやらなければいけないこともたくさんありますから。
演出の出発点は「絶対に見せなければいけないもの」
――ところで、初歩的な質問なのですが、“演出”とは具体的にどのようなお仕事を指すのでしょうか?
吉谷 まずは目に見えるものがどういう光景かを考えて、舞台美術プランを作る。そして聴覚的にどういう音楽がかかっているか、どのようにその世界観を彩っていくかを考えるのも演出の仕事です。“どういう世界観を作るか”ですね。『Code:Realize』でしたら“機鋼都市・ロンドン”を舞台の中でどこまでを表現するか……というのを、脚本からチョイスしながら作り上げる感じです。
――なるほど!
吉谷 細かいところは稽古に入ってから作り込むのですが、稽古に入る前は、ミュージカルだったら「ここは歌にしましょう」と決めたり、アンサンブルは何人必要で、役割はこうしようとか……。演技指導や細かいことをやっていくのは稽古に入ってからです。
――稽古に入る前から、ある程度ビジョンが目に見えていないと難しいお仕事ですね。舞台上で表現したい“光景”はあらかじめ見えているものなのですか?
吉谷 ガチガチに決めてもアイデアが凝り固まってしまいますし、あまりハッキリは見えていません。でも舞台は有限なので、まずは原作のいちばん見せたいポイントが何かを考えます。“絶対に見せなければいけないもの”を優先して考えるんです、『Code:Realize』で言えば、最終的に天球儀ですよね。作品の象徴になるようなものは絶対に見せなければいけないので、それを出したときの画はどうなるのかとか、それを出すまでのプロセスはどうするのか……と考えます。
――外せないポイントを先に決めて、前後をつなげるイメージですね。
吉谷 たとえば原作にゴハンを食べるシーンがあったとしても、見せる必要があるかどうかを考えます。大事なところを優先し、いらないならば省く。『Code:Realize』の物語としては、ルパンとカルディアの恋物語を優先してクライマックスに見せなければいけません。だとしたら、ふたりが結ばれるときの光景は華やかなものなのか、荒廃した世界の中でふたりきりなのか……といった考えかたです。“やりたいこと”ではなく、“やらなきゃならないこと”を優先するのです。
――演出でついつい使ってしまいがちな“クセ”はありますか?
吉谷 アンサンブルの使いかたですかね。私は役者出身ということもあって、とくに人間の力で何か表現したいと思っているし、照明や舞台美術よりも人間の表現のほうが多様的なんですよ。固まっていないものを作れるんです。人間の身体や動きではあらゆるものを作りだせますし、空間の温度を上げるのは人の力だと思うので。
「舞台でもできるだけフォーカスを変えられるようにしたい」
――吉谷さんの作品は、アンサンブルの皆さんだけではなくメインキャストの皆さんもいろいろな動きをされている印象があります。
吉谷 そこも熱量につながりますよね。舞台はアニメと違ってカット割りができません。だからこそ、あるシーンからあるシーンに到達するためのプロセスをどう楽しむか、変化をどう見せていくかが重要です。先ほどの話にもつながりますが、その変化も“見せないといけないもの”なんです。瞬間移動はできないから、到達するためにどう見せるか。
――その“変化”の見せかたが、テンポのよさにもつながっているように思います。
吉谷 それは嬉しいですね。私は2時間じっと座っているのは基本的に苦痛だと思うので、お客さんにそう思わせないことも大切な仕事だと考えています。
――それも含めて演出のお仕事なのですね。
吉谷 2.5次元作品を作り始めてから意識するようになったのは、漫画だとコマ割り、アニメだとアップや引きでフォーカスを変えられるじゃないですか。舞台でもできるだけフォーカスを変えられるようにしたいんです。たとえば距離感を変えたいときは、客席使ったり。ファンサービスというだけでなくサプライズというか……舞台上を見ている間に客席で何かが起きたり、そういうことをなるべく考えられるといいな、と。
――脚本のお話もうかがいたいのですが……まず、膨大な原作のなかからどうやって脚本を書いていくのですか?
吉谷 “絶対にやらなきゃいけない名シーン”は観たいじゃないですか。とはいえ、名シーンのなかで、ラブシーンを3つも4つも作ってもダレてしまう。なので、このシーンとこのシーンを合わせたもの、といったようにチョイスしていきます。
――“絶対にやらなきゃいけない名シーン”を見つけるところから始める、と。
吉谷 そうですね。原作のファンから聞いたり、原作に触れて自分がいいと思ったところから探します。それを見つけて、じゃあ“そのシーンに向かってどう展開するの?”と。たとえるならば駅ですね。ランドマークがあるならば行っておきたい。いまここからそのランドマークに行くまでに、この駅とランドマークをどうつないで行こう? と。大抵の作品は2時間くらいにできなくはないんです。そのためには、いかに複合的な情報を舞台の枠内に入れていくかを考えます。
――それが観客を飽きさせない工夫にもつながりそうです。
吉谷 ふたりがしゃべっているシーンで、ふたりの過去を描かなければいけないとします。けれどそれを分断すると時間内には収まらない……ならば同時に描いてしまおう、と。
――なるほど……!
吉谷 人間の体感も関わってきます。映画でも、4時間の作品を丸ごと見るのはツラいじゃないですか。集中力は、持って1時間40分か2時間くらいですよね。劇場空間は映画とそう変わらない。単純に言うと、大抵のものは誰が出会って、トラブルがあって、解決して、ハッピーエンドかバッドエンドに辿り着く。その大筋を描くなら、2時間以内に収めるのはそんなに難しいことではありません。そこにどうやってほかのキャラクターとの関係性を盛り込むかですね。ほかのキャラとの関わりで、丈尺が決まっていくのかなと思います。
「私がやれる努力は、作品のクオリティでしかない」
――近年では2.5次元作品の数が増えてきて、舞台化も当たり前になってきました。2.5次元作品がさらなる飛躍を遂げるために、何が必要だとお考えですか?
吉谷 いまは原作が好きで観にきてくださったり、役者さんが好きで観にきてくださる方が多いと思うのですが、それがいいことのようでいて、その世界で閉じてしまっている一面もあるようにも思います。それを打破するために私がやれる努力は、作品のクオリティでしかないと思っていて。万人が観て楽しいものに昇華していくことを、地道にやらなくてはいけないのかな、と。ファンのため、原作のためだけではなく、たとえばミュージカルが嫌いな人でもおもしろいと思えるミュージカルを作らなければいけません。その努力をしないと、好きな人だけのものになって、クローズしていくのではないかと。
――その閉じた世界に風穴を開けるのは“万人が観て楽しい作品”だと。
吉谷 物語としてはシンプルに、老若男女誰が観ても楽しいのが理想です。そのためにも、原作をあえて信じすぎないようにしています。重要なのは、知らない人におもしろいと思ってもらえるかどうか。原作ファンの方が「知らなくてもいいから!」と言って知らない人を連れてこれるか、というところですね。
吉谷氏が見る『コドリア』の魅力とは?
――さて、ミュージカル「Code:Realize ~創世の姫君~」の“絶対に見せなければいけないもの”は何になるのでしょうか?
吉谷 ルパンとカルディア、このふたりをどう魅せていくか。キャストのふたりもパフォーマンス力があるので、そこを中心に魅せていこうと思っています。“毒”と“機鋼”それをいかに作っていくかでしょうか。“機鋼都市”と“毒”から想像する世界観には、ホワッとした恋愛要素のイメージがありませんよね。けれど、そんな世界のなかでルパンとカルディアをホワッとさせたいという(笑)。“毒”や“機鋼都市”も描きますが、それはあくまでもふたりを立たせるもの。いかんなくやっています。
――“機鋼都市・ロンドン”をどのように表現されるのか、気になります!
吉谷 映像も使いません。使う選択肢はあったのですが、私は映像の使いかたがあまりわからなくて(笑)。せっかくですし、多様的な表現でやるのが舞台のおもしろさだと思うので。原作に忠実でありながらも、原作を舞台に昇華するときに、いかに自分が“遊べる”かですね。難解で大変だからこそ、“機鋼都市・ロンドン”という舞台を与えられたことは私にとって喜びでした。なかなかな課題を与えられたなと(笑)。ただ、それに捕らわれることなく、ふたりの恋愛は万人が共感できる絶対的な幸せなので、シンプルに描きます。
――原作である『Code:Realize』の魅力はどこにあると思われますか?
吉谷 ヒロインが業を背負っているという珍しいタイプの作品ですよね。閉ざされているヒロインを泥棒紳士が盗み出して、人として開いていく物語は、それだけで明確にドラマティック。しかもそこは機鋼都市で、世界規模の大きな事件という絶対的なトラブルがあり、ふたりが越えなきゃいけない壁は高いです。そのなかで戦うということもそうですが、毒を背負っていて相手に触れられないという悲しく大きな出来事も絶対的に存在していて。それが最大の魅力だと思います。絶対にドラマがあるので。
――それでは最後に、ミュージカル「Code:Realize ~創世の姫君~」の見どころを教えてください!
吉谷 舞台のパフォーマンスとして、いかにおもしろく作れるかということを課題として作っています。アニメの絵を再現するというよりは、舞台ならではの絵を作りたい。原作ファンの方にとって、物語はなじみのあるものかもしれませんが、舞台で見える画や世界は、ゲームやアニメでは見えなかった世界になるように……。視覚的にもお楽しみ頂きたいですし、ルパンとカルディアのキャストはとくにパフォーマンス力の高いふたりなので、私も楽しみですし、ファンの皆さんも楽しみにして頂ければ。ストーリーを知っている方も「こういう表現なんだ」と、「こういう風な見えかたもできるんだ」と、新たな世界の見えかたができるんじゃないかなと。そこは期待して頂ければと思います。
公演概要
【公演タイトル】ミュージカル「Code:Realize ~創世の姫君~」
【公演日時・劇場】
・東京公演(シアター1010):2018年5月17日(木)~20日(日)
・大阪公演(森ノ宮ピロティホール):2018年5月26日(土)~27日(日)
【チケット料金(全席指定)】7900円[税込]
【チケット発売日】発売中
【キャスト】
アルセーヌ・ルパン役:良知真次
カルディア役:長谷川愛
エイブラハム・ヴァン・ヘルシング役:秋沢健太朗
ヴィクター・フランケンシュタイン役:仲田博喜
インピー・バービケーン役:鷲尾修斗
サン・ジェルマン役:滝澤諒
フィーニス役:星元裕月
エルロック・ショルメ役:君沢ユウキ
ランパール・レオンハルト役:大力
仲田祥司、澤邊寧央、山口渓、多田滉、下村彩、熊田愛里、藤縄雄大、熊田健大朗
【演出】吉谷光太郎
【脚本】浅井さやか
【音楽】tak
【振付】MAMORU
【原作】オトメイト(アイディアファクトリー/デザインファクトリー)
【原作協力】Code:Realize PROJECT
【企画・プロデュース】4cu
【制作】ポリゴンマジック
【主催】MUSICAL Code:Realize PROJECT
(C)IF/DF・MUSICAL Code:Realize PROJECT