付き合って初めての記念日。
【彼】があなたにしてくれたサプライズは？
～火原和樹編～

森の中にその木はあった。
一面の緑の中に一本だけ、燃えるような赤い葉をつけた木だ。

「あっ、あったよ！　あれがアニーバーサリーの木じゃない？」

街の人に聞いたとおりなら、あの木は一年中、赤い葉を茂らせているらしい。

「記念日にあの木の前でお願い事をすると叶うんだって。……一緒にお願いしよう？」

おれの言葉に、彼女はそうだねと微笑んだ。
それから少し考えて、でも、なんの記念日なのかと尋ねてくる。

「……つき合った記念日っていうのはどう？」

おれは、彼女に向き直って答えた。

「だって、元の世界ではまだあのコンサートの夜……だよね？　目が覚めてから、おれたちがつき合う１日目が始まるでしょ？　だから、今はまだつき合った当日だよ」

そう言ってから、おれはあることに気づいて、はっと息を呑む。

「……おれたち、つき合ってるよね？　そう思ってるのは、おれだけ……ってことないよね？」

彼女は目を丸くした後、くすくすと笑いながら、もちろんだとうなずいてくれた。

「はあ……よかった……」

おれはホッと胸をなで下ろす。

「おれの気持ち、きみに伝わってなかったらどうしようかと思った」

おれたちはお互いを見てにっこりする。

「それじゃ、お願いごと、しようか」

おれと彼女はアニーバーサリーの木に向かい合った。

「これから先、ずっとずっと……おじいちゃんとおばあちゃんになっても、きみと一緒にいられますように」

おれは木に祈る。大好きな彼女と一緒にいられること以外、お願いしたいことはない。

「……ね。きみは何をお願いする？」

尋ねると、彼女はおれと同じことを祈ると笑った。

「そっか。おれたち、同じ気持ちなんだね。……うれしい」

おれは彼女に微笑んで、それから、胸の中にわき上がる気持ちを抑えきれずに、彼女のおでこにそっとキスをした。

「……ごめんね。今、きみのことが好きでたまらなくなっちゃって……」

少し照れながらそう断ると、彼女は少し頬を赤らめて、同じ気持ちだと笑った。

「……そっか。うれしいな」

おれは彼女に目を細め、もう一度キスをした。今度は、少しだけ勇気を出して、彼女の唇にそっと触れるように……。